マイクロソフトは没落している?

 池田氏の経済の話は非常に納得できるのだが(自分に高度な経済学の知識がないからかもしれないが)、テクノロジーの話は毎回微妙である。

 たとえば、99ドルのKIN TWOは本当に高価なのか? 数年前にT-Mobileが出したキーボード付きのメッセージ専用端末「Sidekick」は当初199ドルという価格で販売されていた(最終的には100ドル以下にまで安くなったが)。そしてクールさがないのはいつものことである。KINが話題にならないのは「マイクロソフトがマイナー企業」だからではなく、「マイクロソフトが作ったマイナー製品」だからだろう。仕様としても目新しいところはなく、プロモーションに大金を投入している気配もない。「ソニーmyloが話題にならなかったらソニーはマイナー企業だ」とか言っているようなものだ。

 記事中では「マイクロソフトの没落」についてえんえんと語っているのだが、まず何をもって没落というのだろうか? 相変わらずOSシェアはトップだし、利益もガンガン稼いでいるし、人だって(結構大規模なリストラはしたものの)まだまだ世界各国で大量に抱え込んでいる。確かにメディアプレーヤーなど、エンターテインメントハードウェアの部門はダメダメだが、マイクロソフトのエンターテインメントハードウェア部門の歴史はソフトウェア部門と比べると全然浅く、さらに一度も覇権をとったことはない。栄えていないのに没落などありえない。マイクロソフトは依然として、ビジネス向けのソフトウェアメーカーなのだ。この分野はいくら無線やWebが普及しようが変わっていない。

 もっとも、MS Officeがオンラインオフィススイートなどのクラウド型サービスに置き換えられてしまうことは考えられる。オフィスで使われるWindowsLinuxに置き換わり、MS OfficeGoogle Docsに置き換わってしまったら「マイクロソフトの没落」と言えるだろう。しかし、Windowsは依然大量のソフトウェアとそれを開発する開発者を抱え込んでおり、またMS Officeも圧倒的なシェアでほかのOfficeソフトの追随を許していない。「作成した文書は他のアプリケーションでは正しく表示できません」なんて、抱え込みの最たる例だ。さらにマイクロソフト側もクラウド型オフィスを開発するなど十分に対策を行っており、まだまだ(少なくとも今後数年間では)没落する気配は見えない。

 池田氏は「IT業界でもっとも重要なのは、製造業のようにいいものを安く作ることではなく、ゲームのルールを変えるプラットフォーム戦略なのである」と述べているが、1990年代〜2000年代に書けてプラットフォーム戦略でもっとも儲けた企業の1つはマイクロソフトなのだ。